戦後日本文化と建築意匠の相関の研究:森川嘉一郎

ルポルタージュ:
取り壊された建築はどこへどのように
廃棄されているのか

What happens to demolished architecture?

下文は日本建築学会「建築雑誌」1997年2月号に寄稿した「取り壊された建築はどこへどのように廃棄されているのか」の転載である。また、「サティアン論」の第七章「巨大ゴミとしての建築」は、これのインタビュー部分を大幅に追加再編集したものである。

取り壊された建築はどこへどのように廃棄されているのか

平成7年9月から8年3月にかけて、成田市芦田ののどかな田園の中に巨大なゴミの山が出現した。産業廃棄物の排出事業者責任をたてに取り、建設会社が自己処理と称して首都圏から建設系廃棄物を集め、不法投棄を重ねた結果である。
逮捕者が出た後、若干混じっていたことで問題となった医療系の廃棄物こそ除去されたものの、現行法のもとでは県が山そのものを強制撤去することは難しく、原状回復の目処はたっていない。11月に取材に訪れた時も残された2万Gの建設廃棄物は放置された状態で、残存延焼がもたらす刺激臭が辺り一帯を覆っていた(写真1、2)。因果関係の立証にはまだ至っていないが、周辺民家の井戸からは基準値を超える砒素やマンガンが検出されている。
写真1写真2
写真1、2:成田市芦田の不法投棄の山

建設廃棄物が不適正処理に回る割合
「不法投棄のメッカ」と呼ばれる千葉県にはこのような不法投棄の山が数多く点在し、深刻な地質汚染をもたらしている。それらは「ほとんどが東京からの建設廃棄物」(千葉県環境部産廃課)とされているが、東京都ではこうした不法な処理の割合はおろか、産業廃棄物一般がどのくらい隣県へ流れているのかも正確につかんでいない。清掃局は都の建設系産廃の都内最終処分率を20%としているが、調査そのものがアンケートによるもので、無許可業者が介在している多くのケースはまったく数字に反映されていない。調査を担当した清掃局産廃指導課の職員は、「五年に一回、しかもサンプル調査しかしていない現在の廃棄物統計は情けない。リアルタイムに現状が把握できなければ環境問題すらきちんと語れない。」と嘆く。
平成7年度の警察白書によれば、不法処分された産業廃棄物の8割は建設廃材であり、検挙に至った「氷山の一角」だけで100万トンを超えている(図1)。これは、全国の建設廃材の年間排出量が約6000万トン(焼却等の処理による減量前)であることと合わせると、実状として建設廃棄物の内の例外的とはいいがたい割合が不適正に処理され、不法投棄に至っていると推定される。
図1
図1:不法処分された産業廃棄物の種類別状況(警察白書7年度版より)

建設廃材のリサイクル業務を行っている中間処理業者は、こうした状況を生んでいる構造的問題と日々相対している。大空リサイクルセンターの安田信所長は、まず全国の住宅の新築にともなう戸建ての解体工事がひどい状況であると指摘する。
「住宅需要が96年は155〜160万戸とされていますが、大手はその半分もやっていないのです。現実は近場の工務店、いわゆる地場業者が大半。その地場業者は、野焼きや不法投棄はしないにしても、廃材を単なるゴミ屋さん的な業者に流していくケースが多い。ところが心ないゴミ屋さんは何でもかんでも燃やしてそれを土と混ぜて不法投棄してしまう。もう焼却施設だけでやっているところはほとんどそれだと思って間違いないです。燃して減量、後は残土捨て場、そのくらいの考え方でやってますよ。」
それでは大手の住宅メーカーの場合はどうか。
「住宅メーカーもまだまだ意識が低い。彼らは処理費用を抑えてコスト削減に結びつけようとするわけです。施主は壊すときの費用はアホらしくて出したがらないわけで、しようがないから安くやってくれる業者に壊してもらう。彼らが請け負うような値段ではまともな処理ができないですから、多くの場合、曖昧な処理の仕方がなされたり、置き場で燃やされたりしてしまう。木材だけ出して後はその場所に穴を掘って埋められてしまう、というような例もあります。」
住宅以外の建設物はどうか。
「大きな建物はある程度コンクリート・クラッシャーに頼ることができるので、住宅よりはましな状況です。ただそれとてきちんと解体されているわけではありません。ゼネコンさんの解体物にもひどい例が多くて、それこそ孫受けみたいなところが実際に壊しています。極論をいえばその人たちは解体の許可を持っているというだけであって、ゴミを処理するルートは持っていない場合がほとんどなのです。まだ救われるのは、そこから収集運搬業者、いわゆる産業廃棄物処理業者に依託して運ばれるケースが多いということです。それすらも実際に千葉県の残土捨て場に東京都内で壊したものをそっくりそのまま捨てている、というような例はいっぱいあります。」

リサイクル処理の現場から
多くの建設廃棄物が不適正な処理で済まされてしまうのは、建設廃棄物のリサイクルが困難で、多くの人手と設備を要し、採算がなかなか合わないことに大きく起因している。大空リサイクルセンターの所沢中間処理工場を取材したところ、ある程度機械による自動化されたリサイクルが成されているのはコンクリート・アスファルト廃材と木クズだけであった。クラッシャーによって破砕された後、コンクリートは路盤材や遮断砂、木クズはパルプ原料や燃料チップとなる。ただし木クズのうち再資源化可能なものは良質な構造材だけで、ベニヤ等のその他のほとんどの粗悪なものは焼却炉に回さざるを得ない(写真3)。また、最近は燃料チップの需要が石油に押されて極端に少なくなっており、ほとんど捌けない状態になっているという。
写真3
写真3:木クズは4種類に分けられる。前景のベニヤ等は焼却処分される。

しかし、真に問題なのは建設・解体現場からあらゆるものがごちゃ混ぜになって排出される混合廃棄物である。廃プラスチックやコード類、絨毯などに混じって、本来は一般廃棄物として捨てられるべき建設現場の人達の空缶類や青焼の束なども見受けられる。この混合廃棄物のリサイクルを行おうとすれば、山を少しずつコンベアに載せて、両脇に並んだ作業員達が細かな品目ごとに手で選別するしか処理方法がなく、その現場はまさに廃棄物と格闘する戦場の観を呈していた(写真4、5)。人件費の問題などから機械化による破砕後分類が試みられているが、異物同比重の問題で現在の技術ではほとんど無理というのが現状であるらしい。
写真4
写真4:混合廃棄物(前景)とそれを処理する手選別コンベア

写真5
写真5:手選別現場

こうした手作業によっても分別不可能なものや、もともと再資源化できない廃プラスチック類は破砕・減容後、千葉や栃木の最終処分場に埋められるが、この最終処分場の確保そのものが現在困難を極めていることなどから、工場側は採算を低くしてでもリサイクル率を上げるべく追い込まれている。しかし、今後建設廃材のリサイクルはますます困難になるという。現場の声をうかがった。
「複合材が今一番ネックになっているのです。建材メーカーは利便性だけを求めて複雑怪奇なものをいっぱい作っていて、これが廃棄物になったときのことを全く考えていない。某ハウスメーカーのものなどは非常に困るのです。実にあそこのものは全部複合材といっても過言ではなく、既に新築現場の余剰材が入って来てますが、これが今の段階からもうどうにもならない。これらが解体される十年、二十年後にはひどい状況になります。」
「今われわれは『建設離れ』を考えているわけです。このまま建設現場からのものばかりやっていたのではわれわれが食い殺されてしまいます。ISO14000をにらんだ動きで、環境監査がきちんと成されねばならなくなる工場系の企業をターゲットにしていくことになるでしょう。建設廃棄物を主体として扱っているともうやっていけないのです。近い内に建設業はまともなリサイクル処理をしてもらえる施設がなくなる、そういう時代がきっと来ますよ。」
適正処理に要するコストの認識がなされず、処理能力が問われないまま安く請負う中間処理業者に建設廃棄物が回るという構造的問題が解消されない限り、早晩建築物を建てることそのものが不可能になるという可能性が現在、建設業界に突きつけられている。

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(c) Kaichiro MORIKAWA
last update:25/2/1997